Nihonbashi Project
日本橋プロジェクト

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東京・日本橋では21世紀に入ってから巨大な再開発が続いている。経済を活性化するためにある程度仕方がないのかもしれないが、巨大な建築だらけになると街はつまらなくなる。
このプロジェクトは、巨大開発の狭間に残された小さな土地に、9階建ての建築をつくるプロジェクトである。9階建てというのは、普通に考えると結構大きい建築なはずなのだが、この場所では極小の建築である。

敷地の横には、中央区の駐輪場と地下鉄の出入口がつくられたばかりでポケットパークのようになっていた。まずは、このポケットパークと一体の街の顔となるようなデザインにできないかと考えた。中央区に交渉に行くと、グリーンウォールを撤去して空間的につながるようにもできるということだったので、思い切って1階のアプローチを細い路地状につくり、奥にエレベーターを設置することとした。

日本橋はグリッドの区画割りの街なので、街角の立面が遠くからすごく目立つ。普通に9階建てのビルをつくってしまうと、街のスケール感で埋没してしまうので、ポケットパークに面した立面のつくり方を工夫してみた。
具体的には、階をまたぐような大きなスチールサッシの開口部をつくり、大きな窓で、街並みにリズムをつくりだし、ヒューマンスケールから巨大な開発スケールまでをつなぐようなデザインとした。スチールの窓枠には照明がしこんであり、夜にはこの窓が、街に対するライトアップ照明としても機能し、夜の風景をつくりだす。

私たちは、建築をつくることがクライアントにとって負債ではなく、未来の豊かさにむけた投資であって欲しいと常に考えている。
立地から、飲食、オフィス、サロンなど多様な用途が考えられたので、階高の設定や飲食対応可能なフロアを複数階設定するなど、都市の事業床としての資産性を最大化する工夫を行っていった。
例えば、全面ガラスの建築にしなかったのも、外観にリズムを持たせたかったというのもあるが、ある程度壁がある方が、オフィスにせよ、サロンにせよ、飲食にせよ店舗のレイアウトがしやすいということもあり採用している。

間口が狭くて奥行が深いという土地の特性上、構造計画が建築設計の上では極めて重要になった。難解な構造設計に対して経験豊富な小西泰孝氏に構造設計を委託し、一緒に合理的な構成と構法を考えていった。まず、軟弱地盤であるため杭基礎を採用することとしたが、既存図が無かったので解体を分離発注し、中間経費を圧縮した。建築を軽量化したほうが有利なのと鋼材量を最小化したかったので、鉄骨ブレース付きのラーメン構造を採用した。

そうして計画を進めていくと、容積率一杯に床を積み上げていくとどうしても建築が細長くなってくる。シミュレーションをしてみると台風や地震時に揺れが非常に大きい。そこで小西氏に相談し、制震ダンパーをブレースに仕込み、屋上には制震装置を導入することで揺れを最小限に抑えるように配慮した。

様々な工夫を重ねたが、これらはとびきりに独創的な発想ということでも無いし、奇抜なデザインということでもないが、街に建っている普通のビルを丁寧に、端正に、工夫を重ねてつくると、こうなるよというプロジェクトであり、どうやら事業的にも成功しているようだから、一安心である。

このプロジェクトのように街角のちょっとした風景を、誠実につくっていくプロジェクトはコツコツと続けていきたいと考えている。

設計|フジワラボ・針谷・カミヤアーキテクツ共同企業体
(フジワラボ担当|設計:中村駿太、山本梨紗 / 監理:大屋 康幸、川見拓也、荒野颯飛)
所在地|東京都中央区
構造|鉄骨造
規模|地上9階

敷地面積|79.87㎡
建築面積|60.93㎡
延床面積|454.57㎡

設計期間|2019年2月~2020年3月
施工期間|2020年3月~2021年9月

写真クレジット
西川公朗