Inamura House and Gardens
稲村の森の家

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  • SOCIAL LANDSCAPES

鎌倉・稲村ヶ崎の街と森の境に立つ住宅。

お施主さんは東日本大震災を機に、家族が帰ってくる「家」をつくることを決意し、幾人かの候補の中から、私たちに声をかけてくれた。話を聞いてみると、家というよりもヨーロッパの街の教会のような、皆が集まってくる場所をつくりたい、ということだった。

敷地は1970年代に開発された住宅地の一番奥にあり、敷地はコンクリートの擁壁で囲われていた。擁壁に埋め込まれた駐車場のシャッターも暗いイメージで、街に対してはどちらかというと閉じた印象だった。驚いたのはその土地の大きさで、裏の森も含めたら2000㎡以上もあるということだった。

どうやってこの豊かな環境を活かすのか。土地のデザインが重要なテーマとなった。

まず私たちが試みたのは、地形を整えることだ。解体業者と土木施工者に分離発注してもらい、できるだけ少ないコストで擁壁を崩し地形を変え、街と森の間に暮らしの場を展開する地形の流れをデザインしていった。

実際に掘り始めてみると想定よりもずっと大変な作業で、掘り起こした土を見上げ、お施主さんと共に途方にくれたりもしたが、敷地全体に少しずつ盛り戻し、どうにか地形を整えることができた。ここで試みたことは、街から山にかけて滑らかな自然勾配とすることで、逆開発のデザイン、地形の再生デザインと言えるかもしれない。

こうして整えられた、土地のデザインに対して、建築のデザイン、庭のデザイン、暮らしのデザインを併走させていく統合的なプロセスを考えた。

週に数日は街の食堂をやってみたいということだったので、一階全体をダイニングルームとし、土地の中央に配置することを考えた。ダイニングルームを取り巻くようにして四周を庭とし、円環状の関係が生まれる。

厨房はシンプルながらセミプロ仕様のものとし、庭で遊ぶ子供たちを見守りながら気持ちよく料理ができるような位置が良いだろうと考えた。いずれはケーキ屋にもチャレンジしたいということだったから、あらかじめ菓子製造所としても保健所の検査が通るような設計としている。ワークショップや展示のスペースが必要だったので、駐車場のシャッターをガラス戸に改造し、街に開いたギャラリーとした。ギャラリーへはダイニングルームから裏階段でアクセスできるようになっている。

庭園の設計は、造園家の川口氏と内藤氏の手によって整えられていった。石の庭、農の庭、雑木の庭というようなそれぞれのテーマを持ちながら、形と素材の多彩な表情によって、回遊の魅力が引き上げられている。その庭の回遊に絡まるようにして、建築の前面に大きな屋根をかけた。軒下は半屋外のリビングルームみたいになるし、内部の暮らしと外部の暮らしをつなぐ結節点にもなる。

一階の奥は、森への入口、森の活動を支える場所としてピロティ状の空間となっている。
この空間は、木工室のような使われ方をしていて、ちょっとした造作工事、薪割りや畑仕事、BBQや子供の遊びなど外部空間での多様な活動を支えている。

一階が地域に開かれた場所、森の活動の拠点となっているので、家族の住空間は二階にまとめた。住空間は美術館のような明るい空間にしてほしいという要望があった。大きな窓をいくつもつけ、稲村ケ崎の海への遠望、広い空と深い森に身体が包まれるような、森の際にありながらも明るく気持ちのよい住空間にしてる。子供が大きくなった時の改修を考え、高さ方向にも余裕を持たせたガランドウのワンルームの空間の設計としている。

建築全体をレッドシダー材をノコギリで割った板で覆った。ノコ目の側を表面としたので、全体がざらりとした表情になっていて、オイルも浸透しやすく経年変化を楽しめるようにした。ピロティ部分の足元は、万が一腐ってもジャッキアップして交換できるようなディテールを開発して、世代が変わっても使い続けてもらえるような更新できるデザインを心がけた。

建築ができて数年が経過し、森につなぐけもの道も少しずつ整備されてきている。鎌倉は山の尾根道をつなぐトレッキングコースが人気で、この家がそのトレッキングコースの秘密の脇道として登録される日も近いのではないだろうか。

ギャラリーや食堂も街の人に浸透し好調のようだ。いつ訪ねていっても、家族以外の人がひっきりなしに訪れてきて、新しい家族像、新しいコミュニティの場所になっているようだ。

A house that stands on the border of the town and the forest between Kamakura and Inamuragasaki.

The site is at the edge of a residential area developed in the 1970s and was defined by a large concrete retaining wall. The wall was a boundary, an example of land engineering that creates barriers between the house and the city, between the house and the environment. So our first intention was to modify the terrain and create a flow to the landscape that develops a living place between the city and the forest. We began to think about this action as a kind of ‘reverse development’, reworking the landscape and making a new relationship with the history of the land.

The client wanted to create an open kitchen for the city, a space for the community to grow. We integrated this idea within the landscape by placing it at the center of the site, surrounding the open living room with gardens on each side. We then considered how to open up the house to the street, and designed a small gallery inside the left over garage, as a threshold into the house from the neighborhood.

The landscape was completed by garden designers Yutaka Kawaguchi and Kaori Naito. Our approach was to create a collection of small gardens, with each garden designed as a new interface that connects interior life to the outside.

The second floor was designed as a bright space, open to the environment in all directions. We created a one room-space with a relaxed program, as a way to create a level of flexibility for the house to be changed and reinterpreted over time. The building is clad in rough cut red cedar boards. The roughness of the appearance works to sit the house in the forest. The textured boards absorb oil readily so the exterior will age agreeably over time. The feet of the exterior columns are jacked up off the ground, to prevent the structure from damage and allow for replacement in the future.

The house has been lived in for several years now, and we have begun to see new flow lines reinterpreting the landscape. Paths from the street to the open living room continue beyond the garden into the ancient trekking routes that climb the mountains behind. The gallery and the restaurant are full of friendly faces, keeping the house open to the community and providing a new model for family living in the modern suburb.

設計|藤原徹平/フジワラテッペイアーキテクツラボ(担当:岩井一也、乙川佳奈子)
所在地|神奈川県鎌倉市
構造|木造/SE工法
規模|地下1階 地上2階

敷地面積|479.26㎡
建築面積|94.01㎡
延床面積|164.35㎡

設計期間|2014年5月~2015年11月
施工期間|2015年12月~2016年12月

掲載誌
japan-architects ブログ(2017年10月2日)
新建築住宅特集 2017年8月号
Pen 2019/7/1号

写真クレジット
© Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi