Akizuki-no-tori Project
秋月野鳥プロジェクト
- ARCHITECTURE
福岡・秋月に建つゲストハウスのプロジェクト
秋月は、野鳥川が削った谷にできた古い集落で、古くから名水の地として知られる。この谷の水で育った農作物はどれも大変に美味で、今もすべての家は井戸を堀って飲み水を得ている。
秋月は重要伝統的建造物群保存地区として指定され、野積みの石垣、武家屋敷、町屋建築、長屋門など街並みが保存されている。その美しい街並みから、筑前の小京都とも言われる。
秋月にどのようなゲストハウスをつくるべきか?
お施主さんからの依頼は、自分だけでなく誰でも泊まれるような場所にしたいということと、まちづくりに貢献できるような建築をつくりたいということだった。
私がアートプロジェクトに関わることが多いせいか、いきなり設計をスタートするよりも、まずは何をつくるべきか、じっくりリサーチしながら一緒に考えてほしいというようなタイプの依頼が多い。
このプロジェクトでも、しばらくは秋月やうきはなど周囲の文化を感じながら、対話を重ねていった。
対話の中で、私たちが面白いなと思ったのは、「長屋門」という建築の形式だった。長屋門というのは、この街にもいくつか残るが、街と家の境界を仕切る「門」でありながら、その門建築に人が住むという面白い存在である。
ちょうど敷地は、新旧の秋月の街の境目にある。ここに門のような建築をつくるのはどうだろうか。ということでプロジェクトが動き出した。
最終的に2つの棟に機能をわけることにした。
1つの棟は、50㎡程度の平屋の建築である。ここは食事や交流の場として使用される。料理人や陶芸家を招き、土地からの恵みを楽しむサロンのような場になる。宿泊者以外も使うことが想定されるので、分棟にして、訪ねやすい形にするのが良いだろうということになった。
もう1つの棟には、3つの個室を設えた。施主のセカンドハウスとしても使うし、友人を招いたり、会員制のホテルとしても運営出来るよう計画している。
個室棟は2階に持ち上げピロティにしている。これは敷地のすぐ横を流れる野鳥川の湿気の影響を避けるためであるし、このことによって「長屋門」のような感じになる。コストを抑えるために木造だが、門としての浮遊感を出すために、鉄骨の細い柱で支える構造としている。
内部も外部もひとつひとつ吟味した素材の組み合わせとしている。
文化的景観と調和する黒く染色した木の外壁、その対比としての白い内部空間。墨を混ぜた左官の床。太鼓貼りの障子。メンテナンスがしやすいリノリウムの床。
シンプルに、飽きがこないように、しかしコストをかけすぎずバランスをとった。
一部イタリアから照明や水栓機器を直接輸入し、シャープな感じを出した。
朝起きて、太鼓貼りの障子ごしの光の中で、秋月の大地からくみ上げた水で顔を洗う。隣の栗林を見ながら朝食を食べていると、ふと、どこかすごく遠くに来たような感覚に包まれる。私たちがつくりたかったのは、そうした静かで豊かな時間の感覚である。
A guest house project in Akizuki, Fukuoka.
Akizuki is an old village formed in a valley carved out by the flow of the Notori River, and has long been known as a famous place for its crystal clear water. The streets are lined with ancient stone walls, samurai houses and machiya townhouses. It is a pristine town, very much rooted in the history and culture of the area.
The request from the client was for a guesthouse where anyone could feel comfortable, and for an architecture that could contribute to community development. We began by setting up a dialogue, and through conversations with locals and regular site visits, we became intrigued by the Nagayamon house typology. The Nagayamon (gate-house) is an interesting condition, where people live in the space that signifies a gate, living inside the boundary between the town and the house.
As the project site exists at the border of the old and new Akizuki towns, we decided to design a guesthouse that would symbolise a gate, linking the past with the present.
So the project began with a division, the public space on the ground floor and the private spaces raised above the ground. The ground floor space is an open room, used for meals and exchanges like a salon where people can gather naturally on the land. The private spaces for staying are raised above ground to reduce the effect of humidity in the Summer, and to ensure a more intimate connection with the surroundings.
The materiality of the project was formed through a careful balance between the honesty of the local vernacular, and simple invention with crafts and techniques. It is a pleasure to wake up in the morning and wash your face with water pumped up from the ground, in the diffused morning light of a shoji screen made from taiko drum skins, you feel suddenly somewhere far away. In this sense, what we tried to create was a quiet, affluent sense of time.
設計|藤原徹平/フジワラテッペイアーキテクツラボ(担当:岩井一也、小金丸信光)
所在地|福岡県朝倉市
設計期間|2015年9月~2018年2月
施工期間|2018年2月~2018年10月
– 西棟
構造|鉄骨造
規模|地上1階
建築面積|63.59㎡
延床面積|50.28㎡
– 東棟
構造|木造/在来工法
規模|地上2階
建築面積|101.71㎡
延床面積|121.44㎡
掲載誌
新建築住宅特集 2019年9月
写真クレジット
© Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi